目標達成プレッシャーの中で見失ったリーダーシップ:チームの「やる気」を引き出すための試行錯誤
はじめに:目標達成の重圧とリーダーシップの影
私たちは皆、仕事において目標達成のプレッシャーに直面します。特にマネージャーやリーダーの立場になると、自身の目標だけでなく、チーム全体の成果に責任を負うことになります。時に、その重圧は私たちの自信を揺るがし、かつてのようなポジティブなエネルギーを失わせてしまうことがあります。
私もまた、そうした状況に陥った一人です。常に高い目標を課され、それが未達に終わるたびに、自身のリーダーシップに疑問を抱き、チームの士気も低下していくのを感じました。この経験を通して、私はどのようにしてその困難を乗り越え、再びチームを動かす力を取り戻すことができたのか、そのプロセスを共有させていただければ幸いです。
困難な状況とその時の心境:達成目標への焦りとチームの沈黙
私が特に苦悩したのは、新規事業の立ち上げを任された時のことです。高い期待とともに設定された目標は、私の想像をはるかに超えるものでした。当初は「何としてもやり遂げる」という強い意志を持っていましたが、現実の壁は厚く、想定外の課題が次々と浮上しました。
焦りが募る中、私は無意識のうちにチームに対し、より一層の成果を求めるようになりました。会議では「なぜ達成できないのか」「もっと効率的にできないのか」といった問いかけが増え、私自身も余裕を失っていきました。結果として、チームメンバーからの意見や提案は減り、会議室には重い沈黙が支配するようになりました。活気のあったはずのチームは、まるで情熱を失ってしまったかのように見えました。
私自身の心境もどん底でした。朝起きるたびに胃が重く、仕事に行くのが億劫に感じられました。過去の成功体験は遠い記憶となり、自分の能力やリーダーとしての資質を深く疑う日々が続きました。疲弊しきった体で家に帰っても、仕事のことが頭から離れず、ワークライフバランスも完全に崩壊していました。自分はリーダー失格なのではないか、このままではチームも自分も潰れてしまうのではないか、と絶望的な気持ちに苛まれていました。
克服に向けた思考と行動:小さな変化を求めて
この状況を打破しなければならない、しかし何をどう変えれば良いのか全く分かりませんでした。まず、私は問題の根本原因を探ることから始めました。自分がなぜこんなにも焦り、チームがなぜ沈黙しているのか。
手始めに、マネジメントに関する書籍を読み漁ったり、社内の信頼できる先輩マネージャーに話を聞いたりしました。しかし、どれもが抽象的な内容に感じられ、具体的な行動に移すにはハードルが高いように思えました。
そこで、まずは「小さなことでも良いから、何かを変えてみよう」と考えました。 最初に行ったのは、チームメンバーとの一対一の対話でした。私はこれまで、目標達成の話ばかりしていましたが、この時は意図的に仕事以外の話題から入り、彼らが普段何を感じ、何を考えているのかを丁寧に聞くことに努めました。しかし、最初は彼らも警戒しており、本音を話してくれることは少なかったように思います。中には、「今さらどうしたんですか」というような、やや冷めた反応もありました。この時は、自分のこれまでの一方的な態度が、彼らとの間に壁を作っていたことを痛感しました。
転機と具体的な克服方法:部下の自律性を尊重するリーダーシップへ
試行錯誤を続ける中で、ある本の一節に目が留まりました。それは、人間の「内発的動機付け」に関する内容でした。人が最もやる気を感じるのは、強制された時ではなく、自らの意志で行動を選択し、能力を発揮できると感じた時である、というものでした。この言葉が、私の凝り固まった思考に一筋の光を差し込みました。私はこれまで、自分の価値観や目標をチームに押し付けていたのではないか、部下の自律性や成長の機会を奪っていたのではないか、と気づいたのです。
この気づきをきっかけに、私は具体的な行動をいくつか試みました。
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目標設定プロセスの見直しと権限委譲: 一方的に目標を伝えるのではなく、チームで目標設定のプロセスを共有しました。メンバーそれぞれに「この目標に対して、自分は何ができるか」「どんな役割を担いたいか」を考えてもらい、積極的に意見を募りました。そして、それぞれの担当領域については、可能な限り彼らに権限を委譲し、決定を尊重するようにしました。 例えば、あるプロジェクトの進捗報告の方法について、以前は私が細かく指示していましたが、チームに「一番効果的な報告方法を考えてほしい」と投げかけました。すると、彼らは自分たちでツールを選定し、独自の報告フォーマットを考案しました。
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フィードバックの質の向上と感謝の表現: これまでは成果が出ないことへの指摘が中心でしたが、小さな進捗や努力に対しても、具体的なフィードバックと感謝の言葉を伝えるように心がけました。例えば、「〇〇さんのあの資料、顧客の課題を的確に捉えていて、非常に分かりやすかったよ。ありがとう」といった具合です。心理学的には、ポジティブなフィードバックは自己効力感を高め、次の行動への意欲につながると言われています。最初は照れくさかったのですが、次第にチームの雰囲気が変わっていくのを感じました。
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「失敗を許容する文化」の醸成: 新しい試みには失敗がつきものです。私は「失敗は学びの機会である」という姿勢を自ら示し、失敗を責めるのではなく、その原因と対策をチームで議論する場を設けました。これにより、メンバーは安心して新しいアイデアを提案したり、困難な課題にも積極的に挑戦したりするようになりました。
乗り越えて得られたもの:自信の回復と成長するチーム
これらの試行錯誤を経て、チームには再び活気が戻ってきました。メンバーたちは自ら課題を見つけ、解決策を提案するようになり、以前には見られなかった主体性が育まれました。目標達成に向けた議論も建設的になり、困難な状況でもお互いを支え合う姿勢が見られるようになりました。
私自身も、大きな変化を実感しています。かつての自信喪失感は薄れ、リーダーとしてチームの可能性を引き出すことの喜びを感じられるようになりました。達成目標へのプレッシャーは今もありますが、それを一人で抱え込むのではなく、チームと共に乗り越える「協働のプレッシャー」へと変化しました。また、部下との信頼関係が深まったことで、精神的な負担も大きく軽減されました。ワークライフバランスも徐々に改善され、心身ともに健康な状態を取り戻しつつあります。
おわりに:一人で抱え込まず、共に歩むリーダーシップ
仕事で自信をなくし、疲弊しているマネージャーやリーダーの皆さまへ。 一人で抱え込まずに、立ち止まって状況を見つめ直す時間は決して無駄ではありません。そして、自分自身のリーダーシップを見つめ直し、チームメンバーの心に寄り添うことで、新たな突破口が見つかるかもしれません。
私自身も完璧なリーダーではありませんし、今後も困難に直面することはあるでしょう。しかし、その経験を通して「一人で全てを背負い込むことだけがリーダーシップではない」という大切な学びを得ました。チームと共に成長し、共に困難を乗り越える。この視点を持つことが、次の一歩を踏み出す勇気を与えてくれるはずです。あなたの乗り越え物語が、きっと誰かの希望になります。