みんなの乗り越え物語

部門間調整の泥沼から脱却:対立する利害を乗り越えチームを動かしたコミュニケーション術

Tags: マネジメント, リーダーシップ, コミュニケーション, 組織運営, 問題解決

はじめに:部署間の壁が立ちはだかる時

仕事を進める上で、部署間の連携は不可欠です。しかし、時にそれぞれの部署の目標や利害が衝突し、プロジェクトが停滞してしまうことは少なくありません。特に、中間管理職としてその板挟みになった時、どのように状況を打開すれば良いのか、途方に暮れてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。かつての私も、まさにその状況に直面し、自信をなくし、疲弊しきっていました。

この記事では、私が部署間の深い対立に悩まされ、プロジェクトが泥沼化した経験から、どのようにしてその困難を乗り越え、最終的にチームを協調へと導いたのか、その具体的なプロセスと実践的なコミュニケーション術をご紹介します。同じような悩みを抱える方にとって、この体験談が少しでも希望や解決のヒントとなれば幸いです。

困難な状況とその時の心境:板挟みで失われた自信

私が経験したのは、全社的な重要プロジェクトでの出来事でした。複数の部門が関与する大規模なもので、私はその調整役を担っていました。当初は意欲に燃えていましたが、すぐに各部署の目標設定、リソース配分、進捗報告の優先順位が異なることから、意見の対立が頻繁に起こり始めました。

特に印象的だったのは、ある施策について、開発部門は「品質を最優先にじっくり取り組むべき」、営業部門は「市場投入スピードを重視し、最小限の機能でリリースすべき」と主張し、一歩も譲らない状況でした。会議は紛糾し、議論は平行線を辿り、決定は一向になされませんでした。スケジュールの遅延が日々深刻化していく中で、私は担当マネージャーとして、上層部からは進捗を厳しく問われ、現場からは不満の声を聞かされる日々でした。

自分の調整能力のなさを痛感し、「なぜこんな簡単な合意形成もできないのか」と自分を責め続けました。夜もなかなか眠れず、朝、会社に向かう足取りは重く、仕事へのモチベーションは著しく低下していきました。かつては自信を持って取り組めていた業務も、この状況下では全てが灰色に見え、心が折れそうになっていました。

克服に向けた思考と行動:問題の本質を探る試み

このままではプロジェクトが頓挫するだけでなく、私自身が潰れてしまうという危機感に駆られました。当初は、個別に各部署の責任者に会い、説得を試みました。しかし、それぞれの立場からの主張は強く、私の拙い説得は聞き入れられることはありませんでした。彼らもまた、自身の部署の利益と責任を背負っているからです。

そこで私は、一時的に「どうやって説得するか」という視点を脇に置き、「なぜ対立が起こるのか」「彼らは本当に何を求めているのか、あるいは何を恐れているのか」という問題の本質を深く考えることにしました。

書籍を読み漁り、社内外の先輩や同僚に相談する中で、私は一つの重要な視点を得ました。「対立は悪ではない。むしろ、異なる視点から物事を見ることで、より良い解決策や共通の目標を見つける機会になり得る」という考え方です。これは、私にとっては大きなパラダイムシフトでした。それまでの私は、対立を避けるべきもの、解消すべきものとしてしか捉えられていなかったのです。

この気づきを得てから、私は具体的な行動計画を立て始めました。

転機と具体的な克服方法:対話と合意形成の戦略

転機が訪れたのは、プロジェクトの上位責任者である部長に、現状の報告と私の課題意識を率直に相談した時でした。部長は私の話に耳を傾け、「プロジェクトの最終的な成功が、各部署にもたらすメリットをもう一度明確にしよう」とアドバイスをくれました。この一言が、私の具体的なアプローチを方向づけることになりました。

私が実践した具体的な克服方法は以下の通りです。

1. 「共通の目標」の再定義と共有

まず、私は各部署のメンバーが集まる会議の場を設定し、プロジェクトの「上位目標」と、その成功が各部署に「どのようなメリットをもたらすのか」を改めて提示しました。例えば、開発部門には「新技術の導入による技術力の向上」、営業部門には「市場での競合優位性の確立と新たな顧客層の開拓」といった具体的な貢献とメリットです。これにより、個々の利害を超えた共通の目的意識を醸成することを目指しました。

2. 「心理的安全性」の確保と本音の引き出し

一度に多くの人が集まる会議では、本音が話しにくいものです。そこで、私は各部署のキーパーソンと個別に面談する時間を設けました。形式ばったものではなく、ランチや休憩時間を利用するなど、リラックスした雰囲気で話せる場を作ることを心がけました。彼らの「懸念していること」「本当にやりたいこと」「なぜその主張に至るのか」を、先入観を持たずに傾聴しました。時には、「こちらの部署の立場からすると、このような懸念があるかと思いますが、いかがでしょうか」と、相手の立場に立った問いかけをすることで、率直な意見を引き出すことができました。これは、アサーティブ・コミュニケーションの考え方を意識したものです。

3. 「情報共有の透明性」と「共感の醸成」

各部署の抱える課題、進捗、懸念事項を、匿名性を保ちつつ全体に共有する場を設けました。これは、特定の部署が「自分たちだけが苦しんでいる」という孤立感を解消し、他の部署の状況を理解し、共感するきっかけを作るためです。オープンな情報共有は、相互理解を深め、無用な誤解や不信感を払拭する上で非常に有効でした。

4. 「小さな成功体験」の積み重ね

いきなり大きな課題の解決を目指すのではなく、まずは比較的合意形成がしやすい小さなタスクや課題から着手することにしました。具体的な行動計画を立て、それぞれの部署が協力し、目標を達成していく過程を共有しました。この「小さな成功体験」が、部署間の信頼関係を少しずつ醸成し、「協力すればできる」という意識を育むことに繋がりました。

乗り越えて得られたもの:協調と新たな自信

これらの地道な努力の結果、プロジェクトは当初の予定より遅れたものの、無事に完了させることができました。何よりも大きかったのは、各部署の間に芽生えた信頼関係でした。以前は連絡すら疎かだった部署同士が、プロジェクト終了後もスムーズに連携し、情報交換を行うようになりました。

私自身も、この経験を通じて大きな成長を遂げることができました。部署間の調整は、単なる利害のすり合わせではなく、異なる視点を理解し、共通の価値を見出すための「対話の芸術」であると認識を改めました。困難な状況でも諦めずに、問題の本質を見極め、戦略的にアプローチする粘り強さと、新しい解決策を模索する柔軟性を身につけられたと感じています。

そして何より、一度は失いかけた自信を取り戻すことができました。心身の疲弊も回復し、仕事への意欲も以前にも増して高まりました。

おわりに:対立の先に広がる可能性

部署間の調整や利害対立は、多くのマネージャーが直面する避けられない課題です。その困難さから、時には自信を失い、疲弊してしまうこともあるかもしれません。しかし、私がこの経験から学んだのは、対立は必ずしも悪いものではなく、むしろ組織をより強く、より柔軟にするための成長機会であるということです。

もし今、あなたが部署間の壁に阻まれ、プロジェクトの停滞や自身のリーダーシップに悩んでいるのであれば、一人で抱え込まず、まず問題の本質に目を向けてみてください。そして、それぞれの部署の真意を理解しようと努め、共通の目標を探す対話を根気強く重ねてみてください。

きっとその先には、単なる問題解決に留まらない、組織全体の協力体制の強化と、あなた自身の新たな自信が待っているはずです。あなたは一人ではありません。この物語が、あなたの「乗り越え物語」の一助となることを心から願っています。